いわんや 悪人をや
数年前 盗まれ 中を抜き取られ
どこぞに 打ち捨てられていた
この お財布
どなたかご親切な方が
拾ってくださって
届けてくださったのでしょう
もしわたしなら
拾うのをためらってしまうくらい
皮は 干からび かぴかぴ
土に 汚れて ぼろぼろ
それを わざわざ
その方は 拾って 届けてくださって
そうして 警察の方に
ご連絡をいただいたのは
盗まれてから さらに一年後
息子が 東京から こちらへ
荷物をまとめて 戻ってくる
お引越しの日 朝ごはんを食べ終わった
まさに その当日の 朝
こんなことって あるのかしら
でも こんなエピソード
まだまだ たくさんあって
たとえば 自転車が盗まれて
でも 戻って来た日が
お誕生日の日の まさに当時とか
だから 本当に
不思議だし 感謝ですが
ただ お財布とか 自転車とか
たのむから もう あんまり
盗まれないでくれ 息子よ と
ちょっと 思ってしまいつつ(笑)
でも 本当に
ありがたいですね 世の中は
さて あまりにも ぼろぼろで
どうしたものかと
文字どおり 棚の上に 棚上げして(笑)
わたしの長い間の ペンディング案件だった
このお財布を
昨日ふと 磨いてみようと 思い立ち
そうしたら こんなに ふっくら ぴかぴかに
そして その中を探ってみたら
さらに 真っ黒に錆びた
竹生島の 漆黒なる 御種銭
さらには いまだかつて
見たこともないほど 面妖に
多層に渡り 多色刷りで錆びている
絶望的なまでの 五円玉が入っていて(笑)
さてこれは どうしよう…
でも お財布が
こんなに 綺麗になったし
放置しておくことも できないなぁ…
こっちも 勇気を出して
磨いてみようかしら
そして その結果の スリーショット
オールスターズが このお写真です
はいポーズ ぱちり
⌘
磨きながら こころの奥で
低い声が 聞こえてきました
⌘
善人なおもて往生を遂ぐ
いわんや 悪人をや
善人なおもて往生を遂ぐ
いわんや 悪人をや
⌘
わたしのものでない 低い声
お経を読んで読んで読み倒した僧侶の
運命を定めるが如き
研ぎ澄まされた 刃物の声が 一太刀
⌘
普通に 錆びた
いわば善人のような五円玉だって
見事に 流通して 活かされて
ましてや こんなに
見たこともないくらい どす黒く錆び
しかも 盗まれたお財布の中でさえ
盗まれえずに お財布の奥の奥
生き残っていた 五円玉って
一見 悪人のようだけど
これって 奇蹟の上をゆく
奇蹟極まりないのでは ないかしら
そうして このお言葉の
理屈を超えた そのたましいが
その時 なんとなく わかりました
そして それは
五円玉を磨いていたあいだは
確固たる 確信であり
五円玉を磨き終えし 今
その確信は 残り香を ほのかに残すのみ
結局 動きの最中に確信は
一瞬手にしたような しないような
掴む必要など ないのかもしれぬ
ただ 目の前の 今の ふつう
今 手にしている これ この中に
確信の片鱗は ほんの一瞬
日輪の描く 極彩色のプリズムの刹那
奇蹟が あたかも 魔が差したように
水底に 凛と 潜んでいる
〜 言乃葉の笹ふね 第百五十六葉 〜